日本共産党道議団の大橋晃団長は十九日、道庁内で記者会見し、「夕張市の医療を守るために−日本共産党道議団の提言」(全文)を発表しました。
提言は夕張市の地域医療を守るための留意点として①基本的には市立病院を病院として残す方向を最後まで追求する②やむなく診療所化する場合であっても、必要な医療は確保する−の二点を提起しています。
夕張市は、十科百七十一床の市立総合病院を、十九床の有床診療所と四十床の老人保健施設に「公設民営」化する方針。六日には市議会がこれを具体化する条例を可決し、経営主体となる新たな医療法人が二月下旬にも認可される見通しです。
一方、住民からは、診療所化で、救急医療や人工透析、現在週一回または月一回の頻度で行われている眼科や耳鼻科などがなくなることに不安の声が上がっています。
夕張の行政・医療関係者、住民らと懇談・意見交換を重ねてきた大橋道議は、「診療所化は住民や患者、関係者の声を聞かずに上から一方的に進められてきたものである。高齢者中心の診療所と老健施設だけでは市民め医療ニーズは満たせない」などと強調しました。
仮に診療所化する場合でも「最低限確保しなくてはならないもの」として、①内科、整形外科、リハビリに加えて、小児科、小児外科などについて一定の対応ができるようにする②高齢者の要望の強い眼科は「院内クリニック」の活用も含め検討する③透析は既存機器設備を維持し、医師を確保する努力を続けて再開に備える−など五項目を指摘。実現に向け、「道議会のなかでも要求していく」と述べました。
(07年02月21日付「しんぶん赤旗」掲載記事より)
夕張市の財政再建計画を作るにあたって、「住民が住み続けられる」ことがその基本とならなければならない。「住み続けられる」ことのなかでも、命と健康に関わる医療の問題は最も重要な問題の一つである。
夕張市は、市立病院を「公設民営」化する方向を打ち出し、このほど10科171床の市立総合病院を19床の有床診療所と40床の老健施設にすることを柱にした方針を打ち出し、2月6日市議会は病院を廃止し、公設民営の診療所と老健施設を設置する条例案を可決した。村上幹彦医師を中心に、経営主体となる新たな医療法人が2月下旬にも認可される見通しとなっている。
しかし、救急医療や人工透析、現在週1回または月1回行われている眼科や耳鼻科などがなくなることに、住民説明会などでも住民・患者から不安の声があがっている。
党道議団は、1月17日夕張市を訪れ、道民医連の宮原氏や熊谷市議とともに、市立病院の村上医師、松山副院長、秋元事務部長、南清水沢診療所の立花医師とつっこんだ意見交換を行い、地元の患者さんや消防関係者とも懇談してきた。
その後、道からも新たにヒアリングも行い、1月30日の道議会総合企画委員会で質問を行った。
これらを踏まえて、夕張市の医療について何が問題か、どのように取り組んでいくべきか、提言したい。
夕張市立病院は、夕張炭鉱病院を引き継ぐ形で、1982年に200床の病院としてスタートし、86年には夕張市立総合病院と名称変更し、財政再建問題が起こる時点では、10科171床(一般131床、療養40床)の総合病院として、文字通り夕張市の基幹病院としての役割を担ってきた。
しかし、その後人口の減少、高齢者の比率増大、 医師・看護師不足(これ自体は全道的問題ではあるが)などによって患者の減少、経営の悪化が進んでいる。
ここまでは、夕張市に限らず道内の多くの自治体に共通する問題といって良いが、夕張市の場合、次の諸点が危機を一層深めたと言わざるを得ない。
市立病院をどのような病院にしていくのかについて、市長にも市の担当者にも明確なビジョンがなく、現場任せになっていた。では現場の声を吸い上げていたかというとそうもなっていない。退職した村上俊吾院長は「具体的な提案を市にしても全く取り入れてもらえなかった」と語っていたという。
こういった市の姿勢が多くの職員にやる気を失わせ、医師や看護師の大量退職にもつながったと考えられる。
市の財政困難を理由に、多くの自治体でもやっている一般会計からの繰り入れを2001年から2005年まで停止し、この間の交付税算入額約7億3千万円が病院以外に流用される結果となった。そして市本体の財政と同じように一時借入金に依存する財政構造が押しつけられた。その結果支払利息が病院会計を一層悪化させる結果となった。
夕張市は9月4日の「財政再建の基本的考え方」のなかで、市立病院については「公営企業再建計画」による再建の方向を打ち出し、同時に市長は「公設民営」を念頭に置くとした。これは8月30日に市や道からの委託で経営診断を行ったアドバイザーが「指定管理者制度(公設民営)による30床の病院と150床の老健」という方向を出したことを念頭に置いたものであるが、具体的な内容は先送りされていた。その後受け皿となる医療法人の中心に、元瀬棚町立診療所長の村上智彦医師が内定し、村上医師は「19床の診療所プラス老健」という方向を打ち出した。
これを受けて市は1月16日、公設民営化の上、19床の診療所と40床の老健とする、人工透析の廃止、などの方向を打ち出した。
しかし、この間の経過を見ると様々な問題点が存在する。
医療問題は命と健康に関わる、住民が住み続けられるかどうかの最大のものである。したがって少なくとも住民や患者の意見を聞いて決めるという手続きが必要ではなかったか。いまからでもこういった場を作らせることが必要になる。
また、立花医師や松山副院長など関係者の意見を十分に聞いているとはいえない。
当初市もアドバイザーも、地方公営企業法に基づく再建企業の指定を受けるという方針を出していたが、診療所化ということでこれは不可能になる。
福岡県赤池町では、町本体の財政再建団体指定とともに、町立病院が地方公営企業法に基づく財政再建企業に指定された。5カ年間の再建計画のもとに、町からの特別繰り入れ、リハビリ施設やCTスキャンの導入などによって収入の確保を図るとともに、人件費、材料費等の経費節減によって、予定を1年早めて財政再建企業から脱している。
新しい医療法人の中心となる村上医師は、瀬棚町立診療所で全国で初めて肺炎双球菌ワクチンに公費助成を行って老人医療費を下げるなど、予防医療と結びつけた高齢者の地域医療の実践で優れた成果をあげた医師であるが、夕張市においても、「予防医療や在宅も含めた総合的医療」を目指すとしている。
高齢化率40%の夕張市で、このような方向は一定の積極的意味を持ってるが、かって12万を超える人口を有し、10科171床の病院を持っていたという歴史的経過に照らして、また現に救急医療、透析など代替の難しい分野をやっており、患者もいるというなかで、これだけで市民の医療ニーズをすべて満たせるものではない。
道の試算では、20床の病院とした場合と19床の診療所の場合の比較で、普通交付税、特別交付税(不採算地区、救急告示など)で、病院で約5400万円、診療所では710万円という結果となり、国から来る金は診療所化によって大幅に減ることになる。また、道が行った経営シュミレーションでも、病院20床+老健29床、診療所19床+老健40床、診療所19床+老健29床の比較では、経常利益では病院20床+老健29床が最も大きくなっている。
ただし、病院の場合医師、看護師などの必要数が大きくなり、医師確保が難しいということから診療所化を選択したという背景がある。
以上見てきたように、市立病院の診療所化という方向は、市民的論議も不十分なまま、また医師確保などの全面的な努力も不十分なまま短兵急に打ち出されたということは否定できない。
いま必要なことは、
30ないし40床の病院として、南清水沢診療所とともに、高齢者を中心にしつつ、眼科など必要最小限の科や診療分野を含めた医療を担う。
1次救急を引き続き残し、人工透析も行う。
これらのための医師確保を道と市の責任で全力をあげて行う。
地方公営企業法に基づく再建企業の指定を申請し、国からの財政的支援を最大限引き出す。
しかしながら、現実には「19床の診療所+40床の老健」ということですでに既成事実化されつつある。
この場合であっても、最低限次の諸点を確保させていく。
その間の透析患者の交通手段については、病院による送迎の可能な所はそれを利用するとしても、道の「腎機能障害者通院交通費補助金」制度を特例的に拡大させ交通費の負担軽減をはかる。