自治体出資団体の「仕組み債」損失問題を追及 |
(注)仕組み債とは、為替レートや金利、株式市場の動向などによって利子などが変動するようにつくられた債券の総称、高い利回りを追求することができる一方、為替レートなどによって無金利となる場合もある。
北海道が出資する関与団体が、きわめて危険な金融派生商品「仕組み債」(注)を購人し、多額の評価損(いわゆる「含み損」)を抱えている問題を、北海道議会決算特別委員会(分科会=2012年11月13日、知事総括質疑=同14日)であきらかにしました。
仕組み債を保有する関与団体10団体のうち道所管9団体、そのすべてで、購人した仕組み債が取得時の価格〈簿価〉を下回る「含み損」が発生していることを、道が初めて認めました(表)。
道の調査によると、08年度末の「含み損」は、2法人で約9億4400万円でしたが、わずか3年後の11年度には9法人すべてで約20億6400万円にまで膨らんでいました。仕組み債の保有額は、総額121億円です。
また、道から9団体への出資金(道民の税金)は総額で約79億円、9団体には道職員・道警OBが総勢18人も天下りしています。したがって、道にも重い指導責任があることは明白です。
(単位万円) | 道や道警OB「天下り」(人) | |||||||
※検査などにより仕組債の保有が確認できた法人を対象に作成 | 北海道の資料から作成 | |||||||
法人名 | 件数 | 簿価額 | 時価額 | 評価損額 |
(参考) 道出捐金 |
OBの再就職 者数(一般職 員ふくむ) |
資金運用 担当者 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
(社)北海道豆類価格安定基金協会 | 42 | 54億7,135 | 45億0,597 | △9億6,538 | 2億7,5008 | |||
(社)北海道馬鈴しよ生産安定基金協会 | 24 | 30億8,906 | 25億7,524 | △5億1,383 | 10億 | |||
(公財)北海道暴力追放センタ― | 6 | 8億5,262 | 7億2,444 | △1億2,818 | 10億2,172 | 9 | 専務理事 (道警OB) | |
(公財)函館地域産業振興財団 | 10 | 8億7,904 | 6億9,032 | △1億8,871 | 9億4,800 | 1 | 専務理事 (道OB) | |
(公財)北海道健康づくり財団 | 7 | 6億8,574 | 5億9,426 | △9,148 | 20億 | 1 | 常務理事 (道OB) | |
(公財)新千歳空港周辺環境整備財団 | 5 | 6億9,995 | 5億8,448 | △1億1,547 | 2,700 | 1 | ||
(社)北海道青果物価格安定基金協会 | 1 | 9,580 | 7,869 | △1,711 | 7,000 | 1 | ||
(社)北海道畜産物価格安定基金協会 | 2 | 1億2,164 | 1億1,005 | △1,159 | 9,250 | 3 | ||
(社)北海道栽培漁業振興公社 | 2 | 2億 | 1億6,746 | △3,254 | 25億 | 2 | 副会長理事 (道OB) | |
合 計 | 99 | 120億9,520 | 100億3,091 | △20億6,429 | 79億5,422 |
仕組み債の「含み損」の問題を初めて指摘したのは、04年の道監査委員でした。北海道馬鈴しょ生産安定基金協会が多額の損失を出したことにたいし、「一層安全かつ確実な方法により財産運用を行うよう」指導しました。
その後、道は、09年11月に仕組み債による財産運用は「安全、確実な運用とはいえず公益法人の運用としては不適切」として、購入を控えるよう総務部長名で各団体に通知していました。しかしその後も、3団体は通知に従わず、同債を購入しつづけていたのです。
10年には、北海道馬鈴しょ生産安定基金協会と北海道栽培漁業公社が購入、12年には、北海道健康づくり財団が購入していました。きわめて悪質な意図的行為といわざるを得ません。
ところが、私の質問にたいし、道法人団体課長は、「法人が定めた手続きに沿って、慎重に検討した上で(仕組み債購入を)決定した」と、答えたのです。道の指導を守らない団体を擁護するような答弁に、私はおどろきを禁じえませんでした。
通知以降、10年度に購入した北海道栽培漁業公社の決定過程では、副会長を務める道からの「天下り」役員が、理事会に諮ることもなく、独断で決定していたのです。11年度の包括外部監査報告によると、道栽培漁業公社では、「副会長が証券会社から説明を受け、購入を決定した」事実を詳細に指摘し、購入過程においても慎重な財産管理をきびしく求めていました。
しかし、こうした貴重な指摘は、一顧だにされていませんでした。
私は、前述の道議会決算特委分科会質疑で、仕組み債購入に道OBらが関与し、道「通知」が生かされでいなかった実態をしめし、道の指導責任をきびしくただしました。そしてさらに〝〝規定違反〟の疑いのある北海道栽培漁業公社にかんする調査を道に強く求めました。
これらにたいし、高橋はるみ知事は、翌日の総括質疑のなかで、調査の結果、副会長による決定だったことを認めたうえで、「遺憾である」と表明しました。
さらに私は、再発防止策として、資産管理運用規定の策定・見直しなどの運用改善と、リスク情報をふくめた情報開示を強く求めました。
高橋知事は、「満期には元本が保証されているとはいえ、誠に残念であり、遺憾である」とのべたうえで、「仕組み債による財産運用として不適切とした通知をあらためて徹底したい」、「道みずからきびしく指導検査をおこない、経営状況の情報公開についでも指導方針に沿って対応する」と答え、団体への指導を強化する方針をしめしました。
資金運用の在り方については、04年の道監査委員の指摘につづき、09年に道が通知を出し、11年度の包括外部監査でもきびしい指摘がおこなわれるなど、数度にわたって改善が求められてきました。それにもかかわらず、危険な仕組み債の購入をつづけ、「含み損」を膨らませてきた背景には、道からの「天下り」が団体幹部となり、独断的決定が可能な状態にあったことに大きな原因があります。
道は、私の質問にたいして、仕組み債保有の9団体のうち7団体に、道や道警OB18人(うち8人が役員や管理職)が「天下り」し、うち6団体の6人が10年以上同じポストを継続して独占する「指定席」であることを認めました(表参照)。
また、道の答弁で、仕組み債の購入には理事会の承認を得る必要があるとする運用規定を持っているのは三団体にとどまり、会長理事または理事長決定が
4団体、専務理事決定が2団体となっていることがわかりました。
さらに、仕組み債を保有する9団体のうち、北海道健街づくり財団、北海道栽培漁業公社、函館地域産業振興財団、北海道暴力追放センターの四団体では、道や道警のOBが「資金運用担当者」となっていました。そのうち2団体が、道総務部長「通知」後も仕組み債を購入していました。
私は、道OBらが再三の道の指導を無視して、資産管理運用規定も策定せず、独断的な仕組債購入に関与した、と指摘し、「天下り」を斡旋した道の責任を追及しました。
高橋知事は、「天下り」については、「道の再就職要綱遵守により公社が判断した結果」だと、みずからの責任を回避しましたが、多額の「含み損」を生じた財産運用の在り方については、「遺憾である」と重ねて答弁せざるを得ませんでした。
多額な道民の税金が役人されている団体が、きわめて危険な財産運用を秘密裏におこなっている実態が、初めてあきらかになりましたが、知事も道も、仕組み債は20年〜30年後「元本が保証されている」との認識をくり返しました。
しかし、この言い分は、数年の高金利のあとすぐに〝塩漬け〟状態となり、簡単に運用益が出ないことを無視しています。
簿価を下回っている仕組み債の元本保証を受けるためには、20年〜30年の満期を待つしかありません。その問、運用先を変えるなどができない=〝塩漬け〟となれば、簿価割れという状況のもとで多くの利息受け取りは期待できませんから、リスクの少ない債券の運用益と比較しても、大きなマィナスになります。このため、当面の損失が出ることを承知のうえで、仕組み債を売却した団体もあります。
被害は、資金の〝塩漬け〟にとどまらず、債券発行団体の格付け低下による元本割れが懸念され、出資金への影響となれば、道民財産への侵害です。
私は、3団体が保有するノルウェー輸出金融公社債を例に、米大手債券格付け機関ムーディーズの格付けが一気に七段階も下がり「Ba1」に低下(11年11月現在)した結果、「投機的と判断され相当の信用リスクがある債務」と評価され、「含み損」が出ている実態をあきらかにしました。
道は、「現段階で他の外国債の格付け低下はない」と答えましたが、今後、いつ急激な格付け低下がおきるか、懸念を払拭できないのは、いうまでもありません。
道におけるリスク認識は甘すぎる、といわざるを得ません。
北大大学院経済学研究科教授の吉見宏氏は、「道出資団体に、仕組債のように複雑な金融派生商品に詳しい運用のプロはいない。外部の専門家に意見を聞くなどチェックが必要」と、「北海道新聞」紙上で指摘しました(12年11月19日付)。
関西学院大学の会計専門職大学院特任教授の吉本佳生氏も同紙上で「運用期間の20から30年間に解約できず、資金が塩漬け。しかし最初の高金利を狙って新たに債券を買うため簡単に購入をやめられない」と、仕組み債運用の問題点を指摘しています。
また、同日付「社説」で、「リスク認識甘すぎる」と取り上げ、道と札幌市が出資する14団体で保有する仕組み債の「含み損」は23億円を超えると報道し、「詳しい調査と運営に及ぼす影響などを明らかにすべきだ」と主張しました。また、「運用原資に公金が含まれるという認識を欠いている」とも指摘し、金融機関の説明責任にも言及しています。
責任をだれが取るのかあいまいなまま、専門的知識もないにもかかわらず多額の仕組み債を運用できることに、重大な問題があります。早急に改善が必要です。
同時に、購入過程において、金融機関がどのように説明し、資金運用担当者・購入決定者との間でどのようなやり取りがなされたのか、道は詳細に調べ、道民に説明する責任があります。保有額は121億円、道は途中売却の可能性の検討に言及しており、「含み損」はさらに増える可能性があります。きびしい総点検が必要です。
北海道議会定数104人中、日本共産党の議員は私一人です。そのため、決算特別委員会に委員配分はなく、理事会の許可を得て、委員外議員として質疑しました。
このようななかでの質間でしたが、仕組み債問題は大きな反響をよび、NHK、「北海道新聞」、「毎日」、「読売」、「日経」が報道しました。
また、傍聴した市民から心温まる傍聴記を寄せていただいたこと、さらに、その傍聴記が、仕組み債の全国の調査結果とともに札幌エルプラザに2度掲載されたことは、私に「ひとりではない」と勇気を与えてくれました。
(『議会と自治体』2013年1月号より)
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