北海道教委/服務調査の異常 |
北海道で、道教育委員会(道教委)がおこなった、公立学校教職員の勤務ぶりの調査が11月末に発表されました。
この教職員に対する空前の規模の調査の始まりは、2010年の民主党・小林千代美衆院議員への北海道教職員組合(北教組、連合加盟)によるヤミ献金事件に端を発しています。この事件の報道の中で、北教組組合員が勤務時間中に民主党候補の選挙活動をしていることが指摘され、道教委と札幌市教委が服務規律調査。それを自民党・義家弘介参院議員(当時)などが国会で会計検査院に調査を求め、その結果を口実に文部科学省がさらに大がかりな服務規律調査を道教委に指示したものです。
道教委は道内2350校、5万7497人を対象に、2006年から10年までの5年間、のべ3200人の職員を動員、2万6000時間、5700万円もの費用をかけて調査・事情聴取をしてきました。
道教委は、10年5月から情報提供制度という名の密告制度まで始めました。ホームページばかりか、夏休み前に児童に配られる冊子をつくって奨励しました。
報告書では551校4169人を「不適切勤務」とし、計1318万6000円余の給与返還を求めました。道教委はさらに調査・処分するとしており、この調査には「重大な問題がある」と新たな抗議の声が起こっています。
道教委のこの調査・事情聴取について全北海道教職員組合(道教組・全労連)の新保裕書記長は「莫大(ばくだい)な人とお金を使って調査しましたが、いわゆる不適切勤務と全く関係のないケースがほとんどです」と告発します。
道立養護学校の養護教諭、清水理恵さん(仮名)は今年5月、数日前に、学校内でいきなり「調査」を言い渡されました。
前任校に勤務していた2年前の2010年9月に参加した、特別支援学校での実践交流の研究会参加が問題にされたのです。清水さんは研究会員ではありませんが、当番校のため職員全員が取り組み道教委も後援していました。
ところが研究会が任意団体であることを理由に道教委は「外勤扱いされているが、勤務に当たらない」と調査してきたのです。
12年度に退職する教職員ら127人の処分はすでに3月27日に発表されました。田中伊津子さん(仮名)は「遅刻」を理由に給与返還と戒告の処分を受けました。
教職員は機械警備の「オフ」で出勤、「オン」で退勤と管理されていますが、操作を担当する教頭が出勤して、職員室の警備スイッチを定刻より遅れて「オフ」にした場合でも、教頭ばかりか全員が「遅刻した」と調査対象にされたのです。
田中さんの場合は、教頭が入力し遅れた5年前からの勤務21件について調査を受けました。調査は「虚偽・誤りがあると処分されます」との威嚇から始まり、5年前の日時の詳細について次々と質問、「覚えていない」と繰り返す田中さんに、道教委は「覚えていないのなら遅れて出勤したかもしれないですね」とたたみかけました。
「職員室に入れない日があったことは確かだけど、覚えていないのに強く否定すると虚偽、誤りととられるのか」と気持ちが動き「そうかもしれないです」と答えたことが処分の理由にされました。
道民からの密告制度までつくって進めた北海道教育委員会(道教委)の調査。やり方は、学校長や市町村教委を威圧して授業中の教員を直接呼び出す乱暴なものです。
養護教諭の清水恵理さんは、保健室で勤務。児童生徒がてんかん発作を起こすとすぐに駆け付けなければなりません。調査にあたって「子どもたちが学校にいる時間は避けてほしい」と要望しましたが、聞き入れられませんでした。
その日も、「てんかん発作を起こした」という連絡があり調査を中断し、教室に急行しました。再開した調査中に、2人目のてんかん発作が起きました。
清水さんは「子どもたちの命を預かる私たちの仕事を中断させてまで強行する調査なのか」と怒ります。
道教委の一連のやり方に、日本共産党をはじめ教師や道民の反撃のたたかいが進められています。日本共産党北海道委員会は5月21日、道教委に対して「憲法に違反し、教育現場に混乱を持ち込む一連の施策はただちに中止・撤回するべきです」と申し入れました。教職員6300人は10年9月、札幌ほか道内4弁護士会の人権擁護委員会に申し立てをしました。
札幌弁護士会(長田正寛会長)は今年7月9日、道教委の高橋教一教育長に対して、「教育の自由および子どもの教育を受ける権利を不当に侵害する」などとして情報提供制度を直ちに廃止するよう勧告しました。
北海道高等学校教職員組合連合会(高教組・全労連)と全北海道教職員組合(道教組・全労連)は10日、道教委に「勤務実態調査報告」について質問書を提出、11月末には抗議声明を発表しました。
櫻井幹二高教組委員長は「道教委の調査でも教職員の平均残業時間は月70時間に及んでいます。ところが私たちには原則、時間外手当が支給されていません。その事態を改善もせずに一方的基準で『不適切』と断定し、あたかも多数の教職員がそのような勤務をしているかのように描き、道民の不信をあおっています」と話します。
新保裕道教組書記長は「今問題になっているいじめをなくすためにも、教職員がゆとりを持って正面から立ち向かうことが不可欠。道教委の不当なやり方を許さないたたかいを強めたい」と話しています。
(12年12月21日、22日付「しんぶん赤旗」より)
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