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提言

北海道新幹線・札幌延伸計画は抜本的見直しを行なうこと

北海道新幹線・札幌延伸計画は抜本的見直しを行なうこと

−並行在来線を切り捨て、地方への財政負担押しつけで進める札幌延伸計画には反対します−

2012年03月08日 日本共産党北海道委員会

北海道新幹線の在来並行線 政府は昨年12月26日、北海道新幹線・札幌延伸を含む未着工3区間について年度内にも着工を認可する方針を正式に決めた。北海道新幹線新函館(仮称)〜札幌間211kmの工期を24年とし、2035年の開業を目指すとしている。工事費用は3区間あわせて3兆100億円、北海道新幹線は1兆6700億円と巨額の費用を算出している。

並行在来線をはじめ建設費用や採算見通し、トンネル工事(北海道新幹線は160km、75%がトンネル)にともなう自然環境問題、これからの北海道の交通ネットワーク問題など、多くの重大な課題が山積しており、こうした諸問題について何ら検証も十分にされないまま「着工先にありき」の政府のやり方は重大な問題をもっている。

日本共産党は、北海道新幹線についてこれまでもその都度、提言を発表し、並行在来線の「経営分離」に反対し、沿線住民と一緒に運動を展開してきたが、政府が着工する方針を正式に決定した新たな段階で、北海道新幹線札幌延伸についての提言を発表し、全道民的な議論を呼びかけます。

1 並行在来線は存続し、国とJRが責任をもって運行すること

整備新幹線の建設とひきかえに「並行在来線をJRの経営から分離する」という着工条件は、全国整備新幹線鉄道整備法になく、自公政権時代の政府・与党合意をそのまま民主党政権が引継いだものである。そもそも、沿線住民の生活の足となっている在来線と、全国の中核都市を有機的に連結する高速交通としての新幹線は、おのずからその役割を異にしており、それを同一条件で論じ、在来線切り捨てを新幹線建設の前提条件としている政府のやり方は、全く道理にあわないものである。沿線住民にとって在来線の切り捨ては死活問題であり、住民の交通権を奪うもので、一方的なこうした切り捨ては、地域の崩壊にもつながりかねない重大な問題を含んでいる。

JR北海道は、国鉄の分割民営化に伴う「経営安定化資金」から毎年200億円から500億円にのぼる運用益と、固定資産税の減免など税制上の優遇措置をうけていながら、赤字になる並行在来線の経営をJR北海道から分離することを一方的に表明しているが、小樽〜札幌間のように採算区については経営を分離せずJRが経営を行なうなど大変みがってな態度をとっている。「旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律」では、「事業を営む地域の発展を図る」と定めており、JR北海道が果たすべき社会的責任は大きく、一方的な経営分離の表明を撤回し、並行在来線の運行に責任を持つべきである。

例えば余市町では、余市駅を発着する上下線合わせて1日33本、1日平均乗降客が1100人、その大半が札幌、小樽の高校や病院に通う若者や高齢者など文字通り住民の「生活の足」になっている。だからこそ、在来線の存続を願い、町民2人に1人が存続署名(署名数1万239人)をおこなっている。

新函館〜函館間の存続を願い、「経営分離に反対する」署名が函館で11万人集約されているのも、これからの函館振興にとってなくてはならない鉄路だからです。それを住民合意もなく、今後の鉄道運営についての具体的な構想も示すことなく、一方的に在来線を切り捨るやり方は撤回すべきである。

政府は、未着工3区間の建設財源に、JR各社が国に支払う貸付料を充てるとしているが、この貸付料の一部を活用するだけでも、函館〜新函館間と長万部〜小樽間の赤字は補填でき、並行在来線の安定した維持をはかるべきである。

1年前の東北新幹線新青森開業でJR東日本から経営分離された青森〜八戸間(96km)を運営する県の第三セクター、「青い森鉄道」は、経営の苦戦が続き、赤字を県民が背負うことになっている。新幹線が開業し、鉄道経営を引き継いでいる道外の第三セクターの多くは、多大な初期投資と赤字経営で火の車となっており、沿線住民の負担は限りなく続いている。

また、JR函館本線・長万部〜小樽間の鉄路が廃止になった場合には、北海道における物流の大動脈となる函館〜札幌間は、千歳線・室蘭本線が唯一の路線となり、大規模な自然災害の発生などにより長期間利用不可能になったときには、代替となる路線が存在せず、旅客や物流に大きな支障をきたす恐れがある。

函館〜小樽間253kmという長大本線がJRから経営分離されたら、地域の崩壊にもつながりかねない重大な問題をはらんでおり、並行在来線は存続し、国やJRが責任をもって運行すべきである。

路線維持と経営安定のために、国とJRなどが責任を負うことを明確にした法整備をすすめる必要がある。

2 建設財源は、自治体に過大な負担を押しつけず、国とJRの責任で再検討し、道民の前に明らかにすること

北海道新幹線の建設財源は、JR各社が国に払う施設使用料(貸付料)を活用し、国の毎年の公共事業費と地方負担で賄うとしている。政府の試算では、未着工3区間合わせた総事業費は3兆100億円、北海道新幹線分は1兆6700億円という巨額の建設費用が計画されている。

国土交通省の出した札幌延伸の費用に対する効果比(費用対効果比)も1・1(基準は1・0)と、基準を僅かに超えるといった程度である。需要予測の外れや、工事でのトラブル、設計変更など時間がたつにつれ費用効果は落ち、コストのわりに効率が上がらない事業になる恐れがある。

全国新幹線鉄道整備法によって建設財源の負担割合は、2対1にするよう規定されていることから、その費用だけで北海道は5500億円にのぼる負担が生ずる。道の試算によると、建設財源に充てる新幹線の施設利用料(貸付料、2040年まで総額で9900億円)を未着工3区間の距離に応じた配分になると仮定し、道債発行に対する地方交付税措置などの一定の条件設定のもとでも、札幌延伸に伴う道負担は2900億円と巨額なものになる。

さらに建設費用の他に函館〜小樽間の並行在来線(253km)のJRからの経営分離に伴う支援策(鉄路の維持、バス転換など)の費用も地方自治体負担となる。現在でも5兆7800億円もの道債残高を抱える道が、新幹線建設費用とその支援策の費用となると、財政的に重大な危機に陥ることになりかねない。道は、新幹線札幌延伸関連予算をのぞいても、税収が伸びずに推移するなら、2018年度には都道府県で初の早期健全化団体となると予測している。現在でも特養ホームへの待機者が2万5000人をこえ、中小企業が倒産に追い込まれ、地域経済が衰退するなど深刻な道民生活の現状の中、これから着工にむけた建設費用を計上するとなると巨額の建設費用によって、さらなる道民の暮らしや福祉施策の削減という事態になりかねない。大型公共事業は資材などの高騰によって、現在試算されている建設費用がさらに膨れあがることがあり、財政負担はこれから24年間、膨大なものになる。すでに2003年の国交省の試算では1兆800億円と見積もっていた札幌延伸の建設費が、今回公表された額は1兆6700億円、5900億円も高騰している。さらに建設費の中には、新しく建設される駅舎の費用、駅周辺の開発費用などは含まれておらず、今後、沿線自治体の負担で行なうことになる。

現在、国と地方自治体で1千兆円もの赤字を抱えており、これを解決するために8%、10%もの消費税増税を国民に押しつけようとしている中で、整備新幹線未着工3区間の新規着工総事業費3兆円(札幌延伸1兆6700億円)もの巨額な建設事業は、緊急の課題ではない。「不急の大型公共事業」を続けながら、国民、道民に大増税を強いることがあってはならない。いま東日本大震災の救援・復興にも巨額な費用が必要なときに、従来と同じ発想で巨大な事業を続けることから脱却するときである。

国と地方の財政に過酷な負担となるだけではなく、完成した施設維持などにも大きな費用が必要となり、将来の世代に重荷となってのしかかるなど、孫子の時代まで犠牲を強いる「負の遺産」を絶対に残してはならない。

3 重大な問題が山積する札幌延伸を一方的に強行することなく、北海道の総合交通体系についての議論をよびかける

並行在来線や建設財源問題、トンネル工事にともなう自然環境問題など、札幌延伸にともなう課題は山積している。こうした問題についての全体構想も道民に明らかにせず、「着工先にありき」では重大な禍根を残すことになる。

延伸工事による地元経済への波及についても、新幹線建設は特殊技術が必要なこともあり、現在建設中の新函館までのトンネル工事(渡島当別トンネル、新茂辺地トンネル)や車輌基地工事をみても、そのほとんど94%は大手ゼネコンの仕事で、地元への仕事は僅か6%である。

「道新」の3年前の世論調査(08年1月発表)では、「多額の税金投入」や「在来線廃止を懸念」し、札幌延伸は「必要ない」の回答は50.5%になっている。

しかも北海道は、東北と同様に、急速な人口減という深刻な課題に直面している。国立社会保障・人口問題研究所による25年後、2035年の人口推計によると、今の550万人(2010年国勢調査)の人口が441万人と110万の減(減少率20%)との予測が出されている。急速に進行する高齢化に対応した社会保障の充実が急ぎ求められている。札幌延伸に関わる問題について、政府や道は並行在来線のJRから分離した場合の住民の足の確保、地域の疲弊問題、鉄路が廃止になった場合の物流の問題、新駅舎と周辺開発と環境問題等々道民に開示すべきである。具体的構想を道民に明らかにせず、延伸を一方的に強行するのは許されません。

日本共産党は、これまで住民が安全、快適、低廉、迅速に移動できることを基本とする総合的交通対策や新幹線問題での提言を行なってきたが、北海道新幹線の整備計画が決定されてから40年経過したいま、交通利用手段も大きく変化しており、北海道の総合交通体系についての議論をよびかけます。

以 上

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